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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)265号 判決 1961年5月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人戸田宗孝、同小林庸男の上告理由第一点について。

所論は、不動産取引業者は委託関係のない第三者に対してまで当然に業務上の義務を負うものではないとの見解を前提として原判示を攻撃するものである。しかし原判決は、必ずしも取引業者の注意義務を一般第三者のすべてに対して肯定したのではなく、上告人が不動産仲介業者として本件貸地を同業者佐々木に紹介したに止まらず、訴外平野清を真実の地主尾関謙一郎であるとして被上告人に紹介面接させ、契約書にも立会人として署名捺印して、被上告人をして右平野を地主尾関であると誤信させたこと等を確定した上で、不動産仲介業者は、直接の委託関係はなくても、これら業者の介入に信頼して取引をなすに至つた第三者一般に対しても、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるとしているのであつて、右判断は正当である。従つて、原判決には、所論の違法はない。

同第二点について。

原判決は、所論のように、上告人が、契約書に立会人として署名捺印したことだけから、被上告人に対し尾関と称する者(実は平野)が真の所有者である趣旨を表明したものと認定しているのではなく、右尾関を真の地主であるとして被上告人に紹介面接させた事実をも併せて右のように認定したのであり、また、原審認定の事実関係の下においては、上告人が仲介業者としての注意義務を怠つたことによる過失と被上告人の被つた損害との間には、いわゆる相当因果関係があるものと認められ、その間に一審被告(原審第五七号控訴人)佐々木の過失が介在することによつて右因果関係が中断したものといえないから、原判決には所論の違法はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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